[プロデューサー:小田泰之/編集・構成・演出:Team XXX、向 悠一(「赤いキャップ」)/音楽・音響効果:ボン/編集・MAスタジオ:スタジオミック/製作:アムモ98/2016年7月8日リリース]
いない姉
“あの世のモノとおぼしき存在”は、なぜか機器類の操作に長けている印象がある。最新技術を駆使してみずからの存在を誇示しようとする。その点だけに注目すれば微笑ましいといえなくもないのだが、「なんのために」そうしているのかを考えると、心は穏やかではいられなくなる。
本作の投稿映像では、機器を“あの世”から操作することで〈場〉を支配しようとしている。その〈場〉に居合わせてしまうと、もはや逃げられない。そこに恐怖がある。
なぜ「支配」しようとするのか? もちろん、“当人”にしかわからぬ事情があるのだろうが、われわれとしてはご遠慮願いたい「事情」であることだけは、まちがいなさそうだ。
首を絞める
タイトルから不穏な空気が漂う。
「首を絞める」映像が撮られてしまったのだろう、とあらかじめ推測できる。実際の投稿の内容も推測どおりだ。
「なんだか不気味だね」と済ませられたら、どんなによかっただろうか。
本作の映像は、たまたまそこにカメラを向けていたから“異形”の姿をとらえることができた。もしも投稿者がカメラを回していなかったら? いや、カメラを回していても、わずかでもタイミングがずれていたら、怪現象は記録されなかった。
結果的には、投稿者の“不幸”に因果関係をつけられたことになる。映像がなければ、“理由”はわからずじまいだった。「わかった」からよかったのか、それとも、だからこその恐怖なのか。
判断がつけられないところが、真の恐怖なのかもしれない。
目的地 クニコ、再び
投稿者たちが言及するように、よくある怪談や都市伝説を再現してしまっただけなのかもしれない。当人たちには気の毒だと思うものの、観る者としては納得はしても怖がりはしない。
罰当たりなふるまいをし、まさに“フラグ”を立てて、みずから回収している。そこに同情の余地はあまりないように思える。
しかしながら、本作にはそうやって簡単にケリをつけてはいけない要素が盛り込まれている。
タイトルの「クニコ」。もちろん、『死画像』に登場したあの「クニコ」だ。「クニコ」が関係しているとなると、にわかに剣呑な空気が漂いはじめる。「罰当たりなことをしたから呪われた」。そう納得しようとしているところに現われる「クニコ」の名。
そもそもなぜ彼は「罰当たり」のことをしたのか? 客観的に見ると、見え透いた罠にまんまと引っかかったことになる。
じつは、因果関係は逆なのではないか? つまり「罰当たりなことをしたから呪われた」のではなく、「呪われたから罰当たりのことをした」。こちらが真実なのでは?
そう考えると、冒頭のカーナビが見せる“異変”にも合点がいく。投稿者たちは、最初から「クニコ」の呪いにからめとられていたのかもしれない……。
浴槽X
「浴槽」に「X」。つまり、浴槽に“この世ならざるモノ”の姿が映る。怪現象にはちがいないが、あまり恐怖は感じない。むしろ背徳感を覚える。それはおそらく投稿者も同じ想いなのだろう。
となると、映像をただ観ているだけで“安全圏”にいるはずのわれわれも、その安全が脅かされることになる。なぜなら、その「背徳感」を巧みに利用されているかもしれないからだ。
誰に? それはわからない。映像に映る“彼女”かもしれないし、“彼女”もまた何者かに利用されているのかもしれない……。
赤いキャップ
心霊写真の撮られた場所に再び足を運び、やはり怪現象に遭遇したとするならば、その“異形”はどんな存在だろうか。
一般的には「地縛霊」などとして理解される。この世に未練を残し、成仏できずにその場にとどまっている。観る者は、本作の現象もそんなふうに納得しようとするが、すぐに無理があることに気づく。
どう見ても、“異形”は投稿者に対し邪悪な意志を向けている。
理由は、もちろん不明。わからないから、対処のしようがない。となると、似たような不運にわれわれも見舞われるかもしれない。
そこに恐怖がある。
ヒンナ神
あらゆる材料がそろっている。いや、そろいすぎている。問題の場所にまつわる〈いわく〉。投稿者の証言。ご丁寧にスタッフが怪現象を検証・再現する。あとは、パズルを組み立てるように、それぞれを論理的につなげていけばいい。
そのはずだった。
これだけパズルのピースはそろっているのに、どうしても欠けた部分が出てくる。観る者は欠けたところを想像で補おうとするのだが、心はどうしても悪いほうへ、より恐ろしいほうへ向かってしまう。
なぜなら、「映像」を観てしまったから。
どうしたって、平穏な想像はできない。つまり、観る者の心に“闇”が巣くってしまったのだ。
これが「霊障」なのかどうか。それをたしかめる術はない。
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