[演出:福田陽平・川居尚美/構成:福田陽平・川居尚美・新津徳也・美濃良偲/ナレーション:中村義洋/2018年12月5日発売]
- 「新幹線」★
- 「ボルダリング」★
- 「タイ旅行」★
- 「インターホン」★
- 「中古のテレビ」★
- 「治療室」★
- 「鉄板」★
- 「縁恨」★
このパート79に収録されている現象は、初見で見つけられないどころか、静止画にしてやっとわかるものばかり。ナレーションによる過剰な説明も興を殺いでいる。そういった作品が1〜2つ紛れこむのはご愛嬌として許せるが、収録作のほとんどが低レベルな仕上がりなのはいただけない。次パートへの期待を込めて厳しくレビューしてみる(ネタバレが含まれることをご了承ください)。
「新幹線」(★)は、車内を撮っていると不気味なモノが映りこむ。カメラを窓際に置くので「あ、窓ガラスに現われるのね」と思っていると、そのとおりの展開となる。いわくが語られるが、ありふれたもので興ざめだ。
本シリーズには、パート2に「作業服の男」という佳作がある。電車の窓ガラスに異形が映る点はおなじだが(もちろん、映りかたは少しちがうが)、あちらは怪異の背景や“呪い”の拡大を丁寧に描いていたため、心霊映像そのものがたいしたことがなくても、恐怖感を味わうことができた。その20年以上の作品より劣っているのは、じつに悲しい。
「ボルダリング」(★)は、ボルダリングをしている娘の様子を撮っていると、この世のモノでない存在が現われる。本作も怪異がわかりづらい。リプレイで説明されても、たいして怖くないのは致命的だ。
また、これは制作者も予想していなかったと思われるが、ボルダリングの現場の位置関係がつかみにくく(どこが地面かわかりづらい)、「座っている」とナレーションで指摘されるまで、そう見えない。そこも混乱のもととなってしまった。
「タイ旅行」(★)は、タイにある寺院の廃墟を撮影しているときに異様なモノをとらえる。パート43「アユタユ」という作品にシチュエーションがよく似ており、おなじような異変が起こるのかと仏像のほうに注目してしまったので、肝心の部分を見逃してしまった。かといって、リプレイでも見つけられず、静止画でやっとわかる始末。やはりもっともらしいナレーションがマイナスにしか働いておらず、詰めの甘さを感じてしまう。
“異様なモノ”は半透明だが、「たしかにそこにいた」という実在感があったほうが(つまり、透けていないほうが)怖くなったのではないか?
「インターフォン」(★)は、玄関に設置された監視カメラが不気味な女のふるまいをとらえる。だれもが気づくと思うが、投稿者のインタビューで映像の内容をすべて説明するという愚を犯している。「おい、オチまでばらすなよ」と思わせておいて意外な展開になる——ということもないので、まったく恐怖を感じない。いでたちこそ「不気味」なのだが、行動は生きた人間と変わらない。
「撮影していることに気づいているのか、カメラのほうに目をやる」「なぜか家のほうから現われ、門の内側からインターフォンを押す」「人間とは思えないほど異様に速い動きをする」など、ちょっとしたことでもいいから、プラスアルファの要素がなければ、とうてい満足感は得られない。
「中古のテレビ」(★)は、中古のテレビのスイッチをオフにすると、消えた画面に人らしき影が映るというもの。たしかに〈なにか〉は映っているのだが、〈なにが〉出現しているのかがわからないので、「だから?」と疑問符がついてしまう。「口の形がメッセージを伝えようとしている」と説明されるが、まったくもってそのように見えず、こじつけとしか思えない。
こういうところに“人”が映りこむなら、「新年鍋」(パート15)ぐらいの不気味さがほしい。
「治療室」(★)は、負傷した脚のケガを治療する様子を撮っていると奇妙な顔が現われる。撮影が可能な状況なの? という疑問もあるが、それは気にしないことにしても、やはり初見ではどこに出現しているのかわからないのは、クォリティの低さを感じてしまう。異形が現われる直前にカメラが上を向く〈出現域制御〉が行なわれるため、ますますニセモノっぽくなっている。
そんなことをしなくても、そのままおなじアングルを映しつづけるほうがリアリティがあったと思うのだが。
「鉄板」(★)は、お好み焼きをつくっている様子を撮影していると、鉄板に不気味な顔が映りこむ。「鉄板は鏡ほど反射しないので、そんなはっきりと映らないのでは?」と思ってしまうところが残念。そもそも鉄板に顔が出たくらいで怖くはないだろう。
たとえば、鉄板に「顔」が現われ、そのままカメラを上に向けると、客席に顔の主と思われる人物が座っている——といった二段構えの展開にするとか。シリーズも80近く重ねているのだから、もうひと工夫は必要だろう。
かつて「ビデオレター」(パート18)で怖がらせてくれた本シリーズの持ち味はどこにいってしまったのか?
「縁恨」(★)は、アイドルのプロモーションビデオを撮影している様子をとらえたメイキングビデオに異様な現象が記録される。次巻につづく長編取材モノ。投稿者たちの人間関係が鍵になっているとおぼしいが、スタッフが「余計なおせっかい」をしているようにしか思えない。もっとも、それはそれで「ほん呪」スタッフの伝統芸ではあるが。
やはり肝心の「異様な現象」があまり怖くないのがマイナス。気づかない部分に別の怪異が仕込まれている(それがのちに指摘される)という展開になるのかもしれないが、本作を観るかぎり〈恐怖度〉は低い。
細かいことだが、登場人物は仮名のはずなのに、インタビューではしっかり名前を言っている。「インタビューの相手も仮名で発言してもらっている」ということだろうが、これまではピー音で隠していただけに、不自然さを感じてしまう。
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