最近は、すっかり“モノノケ図鑑”の様相を呈している本シリーズ。この『56』でも、さまざまなバリエーションの“モノノケ”の類いが登場する。好奇心は大いに刺激されるものの、それが恐怖につながるかといえば疑問が残る。
たしかに不可思議な現象が記録されているのだけど、「この怪現象は○○のしわざ」と因果関係がつけられてしまうので、〈納得〉はしても〈恐怖〉は覚えないのだ。〈納得〉と〈恐怖〉の相性はよくない。
ただ、そのあたりは制作陣も心得ており、作品の味わいを〈納得〉と〈恐怖〉の間にうまく落とし込んでいるとは思う。そこが『56』の鑑賞のポイントになるかもしれない。
マジムン
友人との楽しいひとときを撮影していると、奇妙な存在が現われる。
「マジムン」と呼ばれる、聞きなれない異形が登場するのだろうと、映像を観る前から予想できる。実際にそうなるわけだが、本作で注目すべき点はこの異形の存在ではなく別のところにある。
時空がねじまがったような奇妙な現象。それはこの異形が起こしたものなのか、あるいはこの現象が起こったから異形が現われたのか。簡単には〈納得〉できないところに、いくばくかの〈恐怖〉が観る者の心にわきおこる。
ゲーム依存症
オンラインゲームに熱中する友人が恐るべき行動をとる。
撮影者の生命に危険が及ぶ。その一部始終を目の当たりにするのは恐ろしい。なぜそんなことが起こったのか。理由は判然としないが、因果関係が明らかにならないので〈納得〉はできず、やはり〈恐怖〉が入り込む余地が生まれている。
ぞぞ神
お笑い芸人をめざす投稿者が手品を披露する映像に、不可解な存在が映り込む。
やはりなじみのないモノノケが登場するが、そこで起こることは、ありふれた“心霊現象”といえなくもない。
被害者が行方不明になるなど大事にはならないので、そのぶん〈恐怖〉の度合いは下がる。しかしながら、もしかすると今日もどこかで同じ現象が起こっているかもしれないと想像することもでき、そこに“寒気”を感じたりもする。
うつろ舟
心理カウンセラーたちが患者の自宅を訪問すると、戦慄するような怪異に見舞われる。
本作も「モノノケ図鑑」の1ページを飾る映像といえるが、「うつろ船」はこちらのホラーゲームにも登場するため、多少なりとも予備知識があった。それでも、本作のような展開は予想できなかった。
こちらのページで紹介している〈梅〉レベルのエピソードに加えるべき作品かもしれない。スタッフの遊び心が満載。最近の作品には見られなかった“はしゃぎぶり”だ。
〈恐怖〉とは正反対の方向性だが、ここまで徹底していただけると、本シリーズの本領発揮といえる。シリーズに長く親しんでいる者としては大いに歓迎したいところだ。
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