[構成・演出:藤本裕貴/演出補:男鹿悠太、久木香里奈/演出協力:菊池宣秀・マキタカズオミ/音楽・音響効果:ボン/ナレーション:中村義洋/2022年3月9日発売]
- 「なくしもの」★★★
- 「謝罪」★★★
- 「訪問者」★★★
- 「怪屋敷 前編」★★★★
- 「会議室」★★★
- 「次へ」★★★
- 「熊牧場」★★
- 「怪屋敷 後編」★★★★
『95』の作品群の底流にあるテーマは「怪異の意味するところは簡単にはわからない」ということかもしれない。観ている側は持ち前の“想像力”で現象を理解しようとするが、それが正しい保証はどこにもない。怪異のいわくや背景がナレーションで説明されると、わずかに安心感をおぼえるが、それは気休めであり、じつは安心などしてはいけないのではないか。そんな疑念のわく点が『95』の魅力だ。
また、全体的に怪現象の見た目が真新しい印象を受けるのも『95』の特徴だ。長編「怪屋敷」(★★★★)の怪現象には新しさはないのだが、「超高齢化社会」「介護」といった社会問題が投映されたかのようなお話で、心霊現象を目にするのとは別の“恐怖”や“不安”を抱いてしまう。その点は「真新しい」といえるだろう。
「なくしもの」(★★★)は、投稿者が出生したときの様子を父親が撮影した映像に異様なモノが映りこむ。異形の造形と、撮影者がその存在に気づく点がよい。ただ、いわくが出来すぎている観があり、微妙につじつまが合わない感じもする。とはいえ、人間の〈悪意〉が元凶になっているとおぼしく、そこが本作の恐怖度を上げている。
「謝罪」(★★★)は、ホラー映画のロケハンをしているアパートの一室で不可思議な存在が現われる。“あの世のモノ”とおぼしき人物があまりに自然に部屋に入りこんでいる。だから最初は“人でないモノ”と気づかない。数秒後に不自然さがわかり、背筋が寒くなる。恐怖度は高くないが、日常にふと紛れこんだ怪異といった趣だ。
「会議室」(★★★)は、会議の前日にテスト撮影をおこなっていると、理屈では説明のつかない映像が紛れこむ。怪異の背景がナレーションで説明されるため、(合理的でないとしても)理性では納得できる。だが、本能が映像の危険性や禍々しさを訴える。そう考えると、ナレーションの説明は蛇足だったかもしれない。
「次へ」(★★★)は、とある路上で投稿者の恋人が不審な男に絡まれる様子を撮影したもの。心霊現象とは思えない怪現象で、なにが起こっているのかまったく理解できないものの、恐るべき事態が進行していることをうかがわせる。つまり、今日も街のどこかでおなじ現象が起こっている(これから起ころうとしている)と想像させるのだ。恐怖というより自分のココロが静かにざわめきはじめるのを感じる。
「熊牧場」(★★)は、熊を飼育する施設で撮影した映像に不気味なモノが映りこむ。初見では肝心の部分を見逃してしまった。というのは、熊の迫力に圧倒されてしまったからだ(映像に映るのは野生の熊とのこと)。現われたモノは熊たちに関連がありそうだが、熊の存在に恐怖はかすんでしまうように思う。
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