[プロデューサー:小田泰之/編集・構成・演出:Team XXX 向悠一(「喋る首」)/スタッフ:佐々木勝己/音楽・音響効果:ボン/編集・MAスタジオ:スタジオミック/製作:アムモ98/2017年12月8日リリース]
制作スタッフがつけた投稿映像のタイトルに“闇”が隠されている気がする……。
コマ落ち
「心霊動画」は、霊的存在がなにかしら映像に働きかけることによって生まれる。“彼ら・彼女ら”の意図はもちろん知る由もないが、善意であれ悪意であれ、撮影者(視聴者)に自分の存在を知らせることが目的であると思われる。これまではそれを前提に心霊動画を鑑賞してきた。
ところが、本作を観ると「前提」は疑ってかかったほうがよさそうだ。むしろ存在を知られたくないから本作のような奇妙な映像ができあがってしまったらしい。
皮肉なことに、かえってその異様な所業に焦点が当たることになってしまった……。
車上生活者の記録
本作で核心となる異形は、たしかにこの世ならざるモノとおぼしいが、本シリーズを好んで観ているような“猛者”にとっては、大騒ぎするようなシロモノではない。
むしろ映像の撮られたシチュエーションのほうに関心が向く。異様な状況の理由はあとで少し判明するが、全容が解明されるわけではないので、その余白の部分に観ている者が“闇”を広げてしまう。
喋る首
2つの異なる奇妙な現象が起こる。両者に関連があるかは不明。一方に投稿者は驚くが、もう一方は撮影中には気づかない。観ている者は、「首」の正体に心当たりがあるのだが、だとすると解せない部分も出てくる。
しかし、これらの現象について考察することに、あまり意味はないように思われる。むしろ投稿者の口からふと漏れた友人の話。そっちのほうが“闇”が深そうだ。だが、本作ではその点はまったく追究されない。その理不尽さにいくばくかの恐怖が生まれている。
首人形の実験
本作で扱われる〈人形〉はただただ不気味。とはいえ、たしかに〈人形〉にまつわる怪現象が投稿映像にはおさめられているのだが、問題の核心はじつは〈人形〉でないところに本作のポイントがある。
一般的な心霊現象の類いであれば、怪現象を起こしたのは(そして観る者が恐怖を覚えるのは)人形ということになるが、本作は〈人形〉が怪異を起こしたわけではなさそうだ。むしろ怪異を媒介している存在といえる。
だからこそ、想像をはるかに超える“闇”が〈人形〉の向こう側に広がっている気がしてくる……。
手の中
本作では〈奇妙な女〉の挙動が問題の中心となる。観る者には〈女〉に思い当たるフシがある。だが、相手は幽霊のような朧げな存在ではなく、実体を持つモノであるようだ。「思い当たるフシ」があるのに、まったく腑に落ちない。実体があるならば、〈女〉は心霊の類いでなく、不気味なだけの生きた人間ということになる。
しかしながら、人間だったとしても恐怖はおさまらず、また人間でなかったとしたら、やはり別の恐怖が観る者の心に巣くうことになる。
産女(うぶめ)
「産女(うぶめ)」とは、難産で命を落とした女の妖怪であるらしい。なぜ本作にはそんなタイトルがつけられているのか? これまで「産女」という名前は登場していない。スタッフが想像でつけたのだろうか。観ている者には知らされていない事実があるのか。
「産女」をキーワードにこれまでの作品を振り返ると、たしかに多少なりとも合点がいく気がする。しかし、なんの確証もなしに「産女」という“答え”を受けいれていいものだろうか? その疑念が消えないところが、ほんとうの恐怖なのかもしれない。
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