心霊・恐怖・衝撃・戦慄の映像を分析

  1. コワすぎ!

〈戦慄怪奇ファイル コワすぎ!〉は白石監督がコワすぎ!

怪奇現象のドキュメンタリーを制作しているスタッフのもとへ、不可思議な映像が記録されたビデオが送られてくる。投稿者に話を聞いたり、撮影現場におもむいたりしながら、その謎を究明していく──。

〈コワすぎ!〉は、そんな話のDVDシリーズだ。この手のジャンルを多く観ている人なら「よくあるパターンだね」と思うだろう。

しかし、本作品の監督はフェイク・ドキュメンタリーの名手・白石晃士(『ノロイ』『カルト』)なのだ。ただのホラーで終わるはずがない。いったいどこが「コワすぎ!」なのか。作品の魅力を分析してみよう。

ディレクターがコワすぎ!

本作の主人公であるディレクターの工藤(大迫茂生)がまずまともではない。真相をしゃべらせるためホームレスに金を握らせ、除霊と称して依頼者を拳で殴りつける。〈口裂け女〉を捕獲するために取った手段は、なんと北野武監督『その男、凶暴につき』の主人公と同じもの。まさしく、その男、凶暴につき、だ。

ここで「なんだ。コワすぎ!なのは、怪奇現象ではなく、この工藤だったのか」と合点がいく。

しかしながら──。

観ている者は、いつしかこの凶暴さに頼もしさを感じはじめてしまう。というのは、怪奇現象とは、われわれの世界に暴力的に侵入してくる不条理だからだ。目には目を。不条理には不条理を。

殴られるほうはたまったものではないが、しかし、霊能力を持っているわけでもない工藤のやり方が実際に効果を上げている。

そして──。

粗暴なふるまいは、えてして心の弱さを表わす。

たとえば、『FILE-02 震える幽霊』で訪れた深夜の学校での工藤。投稿映像で不気味な足音が録音された階段にたどりつくと、「おいっ、足音こねぇのか⁉︎」と勇ましく叫ぶ。じつは怖いのだ。弱い犬ほどよく吠えるってわけだ。現に、ほんとうに危険な場所には、アシスタント・ディレクター(AD)の市川を向かわせている。

工藤は暴力的であっても、作品を観る者にとっては、けっしてコワい人間ではない。人間味すら感じさせる。

むしろ、食わせ者はAD市川のほうだ。

アシスタントがコワすぎ!

市川(久保山智夏)は当初、上司である工藤から理不尽な行為を強要される、いたいけな女性に見えた。しかし、彼女も回を追うごとに本性が露わになってくる。工藤の要求に「お金をくれるならやります」。ナイフを手に「もう死んでるから、(刺しても)いいんですよね?」。

一見コワそうだけど、心の弱さが透けて見える工藤。可哀想な女を演じながら、したたかに立ちまわる市川。どちらが真にコワい人間かは明らかだ。

市川の真骨頂は、『劇場版・序章 真説・四谷怪談 お岩の呪い』の悪霊に取り憑かれるシーンで発揮される。

これはメタフィクションの視点になるが、このシーンを観たとき、「演じている女優さんは大変だな。監督にこんなことやらされて」と同情した。それだけ壮絶な場面だ。そこにプロの女優魂を見出すことができた。

ところが、じつはこのシーン、なんと久保山さんからの「こういうのぜひやりたい」という、たっての希望で実現したものだという。

ということは、だ。

嬉々としてやっているのだ、あの恐怖の場面を。悪霊の唸り声は、歓喜の表現だった。 恐ろしい。二重の意味でコワすぎ!だ。

監督がコワすぎ!

ディレクターの工藤、AD市川に加え、このシリーズにはもうひとりレギュラーのメンバーがいる。白石監督に風貌が似ているカメラマンの田代だ。

なぜか怪奇現象を察知する能力に長けており、何かが起こりそうな場所にすばやくカメラを向けたり、誰にも見えない霊をいち早く発見したりする。

カメラを向けるのは、何が起こるか知っているからでは? 霊がほかの人に見えないのは、あとで合成するからでは? という疑惑はあるが、ここで問題とするのは、この田代にウリふたつの白石監督だ。

どのエピソードにも、必ずひとつは「はっ!」とさせる恐怖演出を盛り込んでいる。

「型破り」とよく言うが、白石監督ほどこの言葉が似合う人はいない。しかも、破るべき「型」を作っているのは、白石監督自身なのだ。各作品ごとに、次から次へと新しい手を繰り出してくる。つねに過去に誰もやっていない試みにチャレンジしている。この創作姿勢には舌を巻く。

もっとも度肝を抜かれたのは『FILE-04 真相!トイレの花子さん』だ。

怪奇現象の起こる校舎では、霊の力によって時空がねじ曲がっている。いくら階段を降りても1階にたどり着かなかったり、深夜だったはずなのに急に朝になったり……。そんな校舎を探索するうち、依頼者の少女の姿が消えてしまう。乗ってきた車で彼女の自宅に向かうと、依頼者は首を吊って死んでいる。少女を助けるため、再び車に乗り、霊と対峙するために学校へ向かう……という一連のシーンが、なんとワンカットで展開する

制作陣に予算や時間が潤沢に与えられているはずはない。にもかかわらず、ハリウッドでさえも敬遠するような、複雑な段取りの撮影に果敢に挑戦している。そのチャレンジ精神には、感心を通り越して、恐怖すら覚えてしまう。

一番コワすぎ!なのは白石監督だった。そんなオチがつくシリーズだ。

〈コワすぎ!〉はコワすぎ!

このシリーズは『史上最恐の劇場版』で完結したと思っていた。どう考えても、この先、話を続けることはできない。誰もがそう考えていたはずだ。

しかし、先日、新シリーズの撮影がクランクアップしたというニュースが報じられた。

もしかすると、予想を超えた反響に、制作陣が一番「コワすぎ!」と思っているのかもしれない。

©ニューセレクト

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