〈心霊玉手匣〉は、『ほんとにあった!呪いのビデオ』などで手腕を振るった岩澤宏樹監督の手がける心霊映像シリーズだ。
当サイトが選ぶ『ほん呪』の最恐映像では、岩澤監督の作品がもっとも多くランクインしている。この〈心霊玉手匣〉もほかの心霊映像シリーズとおなじように、ランキング形式で傑作を紹介しようと視聴をはじめたのだが……。
それは不可能だということに気がついた。
その理由をこれから述べていこう。そしてそれは、本シリーズの魅力を説明することにもつながるのだ。
【衝撃!】点と点は“線”ではなく“面”でつながる
まずは、『心霊玉手匣』の第1作目から観てみよう。
収録されているのは、「霊がいるか調べる方法」「八百比丘尼」「黄泉戸喫」などと題された作品。題名のテロップとともに投稿映像が紹介されていく。これは『ほん呪』をはじめ、ほかの心霊映像シリーズとおなじフォーマットだ。
しかしながら、いつしかそのフォーマットが崩されていく。テロップは表示されるが、ほんとうに作品のタイトルを表示しているのか疑わしくなるのだ。ふと気づくと、作品の切れ目があいまいになっている。
やがてそれぞれの映像は独立しているのではなく、怪異の元凶はすべておなじであることが判明する。いわば点と点が“線”でつながっていくわけだ。
「おい、ネタバレするなよ」とお怒りの向きもあるかもしれないが、これは『ほん呪』における岩澤監督の語り口とおなじだ。そもそも公式サイトにも書いてある。だから、作品を視聴する前から想像できたことなのだ。
ここまでは問題ない。ここまでは……。
2作目、3作目と視聴をつづけるうち、別の真実に気づかされてしまう。
じつは、DVDの各巻におさめられた映像がすべて関連している(点と点が“線”でつながっている)だけでなく、この〈心霊玉手匣〉というシリーズ全体がひとつの大きな物語になっていることがわかるのだ。
それはまるで、点と点をつなげていたはずの“線”が、インクが染みていくみたいに滲み、“面”へと広がっていくように……。
ランキング形式で作品を選び出すことができない理由はそこにある。
【衝撃!】カメラがとらえたのは“超常現象”ではない
〈心霊玉手匣〉シリーズは、「超能力」「念写」「予言」「アポカリプティックサウンド(終末音)」「ファフロツキーズ」といった、古今東西の心霊現象・怪奇現象・都市伝説などをモチーフにしている。
まさに超常現象の“玉手匣”というわけだ。
〈心霊玉手匣〉で紹介される映像は、ほかの心霊映像シリーズとおなじように、「カメラをまわしていたら、たまたま幽霊が撮れちゃった」というもの――と最初は誤解する。
ところが、『心霊玉手匣3』あたりから、またしても心霊映像シリーズの定石が破られていることに気づく。
たとえば『3』に登場する映像は、必ずしも目の前の現象を偶然にカメラにおさめたわけではない。意識的か無意識かわからないが、だれかの意思によって撮影させられてしまったものなのだ。
「なるほどねえ」などと呑気にかまえているわけにはいかない。われわれが想像する以上にコトは深刻だ。
起こる確率のきわめて低い現象(超常現象)を偶然にもとらえてしまった――そんな心霊映像シリーズの既成概念が壊されていく。カメラの前で起こったことは、この世で発生した些細な〈偶然〉ではなく、人知を超えた巨大ななにかによる〈必然〉だったのではないか。
つまり、〈宇宙の法則〉とか〈この世の理〉の片鱗をわれわれは見せられているのではないか。そんな気がしてくるのだ。
……なにを言っているのかわからないかもしれない。当サイトも頭が混乱している。われわれ一般人が〈真実〉に到達するのは不可能なのだろう。
『心霊玉手匣 其の二』に登場する自称・超能力者の土保は、ワケのわからないことを口走る。だが、彼こそはこの〈真実〉をつかんだのかもしれない。ワケがわからないのは、われわれの知見が彼のレベルに到達していないからだ。
われわれが土保の域に達するのは不可能だとしても、〈心霊玉手匣〉で描かれている〈真実〉に少しでも近づくために、こんなたとえを考えてみよう。
仮に、春の訪れとともに目を覚まし、夏になると眠りにつく生物がいるとする(その生物は人間とおなじ知的生命体だと仮定しよう)。春に起きだした“彼”は、森の木々を緑色と認識している。しかし、なにかの間違いで“彼”が秋になっても眠らなかったとする。木々の葉が赤や黄色に染まるのを見て、“彼”は「超常現象」だと思うのではないだろうか。
別のたとえ。異星人が地球を訪れる。そのとき、たまたま台風やハリケーンに遭遇。異星人は「天変地異が起こった」と恐れ慄くのではなかろうか。
われわれが心霊現象とか超常現象などと思っているものは、月の満ち欠けとか、潮の満ち引き程度のことかもしれない。「八百比丘尼」も「ファフロツキーズ」も、じつは自然現象の小さな変化にすぎないのではないか。
ようするに、〈宇宙の法則〉にのっとった必然ということだ。
そんな〈真実〉が〈心霊玉手匣〉では描かれているのだ。
【衝撃!】人が宇宙の法則に逆らうことはできない
〈心霊玉手匣〉シリーズで表現されているのが〈宇宙の法則〉とか〈この世の理〉だとすると、われわれは下記の衝撃的な事実に行きあたる。
——人は、起こるべくして起こった現象に逆らうことはできない。
本シリーズでは、投稿映像の裏に隠された真相をつきとめようとスタッフたちの奮闘する姿が描かれる。そうしなければ投稿者の不幸につながる恐れもあるからだ。なにかしら行動せざるをえない。
だが、すべてムダ。ダメなのだ。なにもかも。
よくよく展開を見てみると、スタッフが行動を起こしてもなにも解決していないことがわかる。
たとえば『心霊玉手匣4』の終盤、彼らのアクションによって結末が変わったように思える。しかし、それは何年も前から仕組まれていたことであり、あらかじめ運命は決められていたのだ。
スタッフは映像作品を制作するのが仕事であり、超人的な能力は持ちあわせていない。過去に起こった災厄、目の前で生じている怪異、未来に訪れるであろう災難をただ傍観するしかない。
この点は、最終作『心霊玉手匣constellation』で“土保”が非難の意もこめて指摘している。
さらに、霊能力を持っている高校生・両角奈緒(モロちゃん)は、第1作目において、いみじくもこう語っている。
なるようにしかならねえよ! やめろよ! 寝てろ! 寝て待て、寝て待て!
モロちゃんのセリフは〈心霊玉手匣〉の絶望感を端的に表現しているといえる。
【衝撃!】運命を変えられないからこそ人々の奮闘が光る
人は宇宙の法則には逆らえない——これが〈心霊玉手匣〉の〈真実〉だ。
しかしながら。
〈真実〉の向こう側に本シリーズの〈真髄〉ともいうべきものが隠されている。おそらく岩澤監督が本シリーズで描きたかったのは、むしろその〈真髄〉のほうではないか、と勝手に想像する。
どんなにあがこうと結末は変わらない。たしかにそうかもしれない。だが、「寝て待て」と、あきらめにも似たセリフを吐いたモロちゃん自身が、スタッフに負けず劣らず激しく動いている。叫んでいる。走っている*。
*第1作目では、モロちゃんが「もっとしっかり行動すべきだった」と反省する姿が描かれている。
これはどういうことか?
つまり、結果ではない。過程なのだ。
スピンオフ作品『Get Back【玉手匣外伝 其の二】』で“土保”は叫ぶ。「Good Luck!」。運命は変えられない。変えられないが、その決められた運命のもとで精いっぱい行動しろ。走れ。泣け。わめけ。あらがえ。ありとあらゆるあがきをやってから、死ね。
それこそが「生きる」ということ。
運命は変えられないという世界観のもとで、モロちゃんやスタッフたちの奮闘ぶりは輝きを放っている。その姿は観る者の胸に深く突き刺さる。「生きる」とはどういうことか、体を張って表現しているからだ。
岩澤監督は、“土保”のコトバを通して——いや、モロちゃんやスタッフたちの、ちょっと気恥ずかしさすら感じさせるほど青臭いふるまいによって、人生の〈真実〉を伝えようとしているのだ。
それが〈心霊玉手匣〉の〈真髄〉だ。
【衝撃!】ついにわかった「玉手匣」のほんとうの意味
先に、「古今東西の心霊現象・怪奇現象・超常現象・都市伝説をモチーフにしている」から、〈心霊玉手匣〉と称しているのだと述べた。
最後にこのタイトルの意味をもう一度考えたい。
〈玉手匣(箱)〉と聞いて真っ先に思い浮かぶのは、童話「浦島太郎」に登場するそれだ。時間を忘れて龍宮城のもてなしを堪能した浦島太郎は、陸にもどったあと、乙姫様にもらった〈玉手匣〉を開けて老人になってしまう。知らぬ人はいないお話だ。
「浦島太郎」において、〈玉手匣〉はどんな役割を果たしているだろうか。
人は歳をとる。それが〈宇宙の法則〉だ。だが、浦島太郎は龍宮城を訪れたことでその法則からはずれてしまった。だから、〈玉手匣〉は正した、その矛盾を。浦島太郎が老人になったことで、宇宙は元通りになった。
〈玉手匣〉とは〈宇宙の法則〉からはずれないように森羅万象を司るモノ。〈この世の理〉を実現するモノ。そんな存在であると想像できる。
〈宇宙の法則〉を知った土保。彼が“光”のなかで見たモノ。それこそが〈心霊玉手匣〉だったのかもしれない。
チーム玉手匣のみなさま、楽しい作品をありがとうございました。
嬉しいなぁ。自分が作っている作品なのに、読んでて何だか感動しました。ありがとうございます。 https://t.co/Za4iLX514e
— 岩澤宏樹 (@hirokiiwasawa) 2018年9月15日
読まないもらいました。
冗談じゃなく最後にゾクッとした、、、
最高にありがとうございます✨ https://t.co/kl4PNDElXe— 上園貴弘 (@uesupe1121) 2018年9月15日
こんにちは。
前々からこの作品を記事にされていて、なんとなく気になっていたのですが
今度借りようと思います。
映像配信はしていないようですので、
dmmでDVDをレンタルで。
この手の作品が好きな人は、楽しいひとときを過ごせると思います。ぜひ堪能してください。
今回もコメントありがとうございました。